2020-11-13

留学生からの学びと涙の別れ

初めてインドネシアの首都ジャカルタ、スカルノ・ハッタ国際空港に着陸した時、南国の何とも言えない「よい香り」に感動しました。南国、いいなーと強く思った。

私は、ブラジルで大農園経営を夢見て、大学を選び、サークルは「熱帯農業研究会」に入部。それゆえ、熱帯を訪問し、生活するのは、一つの大きな夢でした。

その夢の熱帯に初めて降り立った時は、「やっと熱帯に来た」と、一人感慨にふけりました。熱帯の国、インドネシアへは、10回以上出張し、2つの大規模な国際共同研究を実施。


さらに、インドネシアから5名の留学生と一緒に博士論文の研究を楽しみ、彼らから多面的に学び、刺激と勉強の日々を過ごしました。全員とても優秀でよく研究し、私と我が研究室を支えてくれました。

正月には、毎年、我が家で留学生と食事会。お雑煮やおせち料理を一緒に食し、私の子供達も含め百人一首、坊主めくりやトランプを楽しみました。みんな陽気で元気な仲間、楽しいお正月の恒例行事。

ジャカルタから飛行機で東に1時間、インドネシアの古都、ジョグジャカルタに到着。ジョグジャカルタには、約3000のインドネシアの大学、ランキングトップのガジャマダ大学があります。私が博士課程を指導した5名の留学生は、全てこの大学の卒業生。

彼らから国際及び国内シンポジウムに特別講演者として招待され、シンポやインドネシアも楽しみました。懐かしい思い出です。

2年前にジョグジャカルタで山形大同窓会インドネシア支部を立ち上げました。その時は、私の元指導学生の多くが家族と一緒に参加し、とても楽しいひと時でした。

博士号を取得した学生諸君は、何時も3月末に母国に凱旋帰国します。3月は、毎年、別れの季節。


女子学生のデナさんもその一人。鶴岡に6年滞在した彼女の送別会を思い出します。研究室の学生諸君が一人ずつデナさんの思い出を語り、その後、教員、最後はデナさん。のっけから涙モード。名前に似ず心優しい3年生の女子学生、ヒグマ君が、「年を取ると涙もろくなります」と、涙をこぼしながらデナさんの思い出を話す。「馬鹿者、ヒグマ。若いヒグマがのっけから涙を流してどうする」、と言いつつも、こちらも涙腺が緩くなるのを感じ、何となく危ない雰囲気。 

8年前のある日、デナさんが私の部屋に研究討論に来て、それが終わり帰る時に一瞬立ち止まり、「先生、研究とは関係ない質問をしていいですか」と聞きました。「いいよ、何だい」。「先生は、何時もエネルギッシュで、私に元気を与えてくれます。先生と話すと何時もエネルギーをもらえます。何故、先生は何時もエネルギッシュなのですか、どうしたらそうなれるのですか」。

全く予期せぬ質問。「私は自分がエネルギッシュだとは思わないし、私も悩む時があれば、落ち込む時もある。その質問には上手く応えられない」。「でも、私が学んでいる人の生き方は、参考になるかも知れない」と、稲盛塾長や中村天風先生及び安岡正篤先生から学んだ教えや考え方等を少し紹介しました。

「生きる目的により人の生き方、人生が変わる。志を高く持ち、世のため人のために役立つことを行い、常に喜びを心に描く。そして、感謝の気持ちを忘れず、物事を楽観的に考える。人生は、心一つの置きどころ」。

「そうすると宇宙霊(神仏)と一体になり元気が出る、と言われている。私もそう思う」。デナさんは、少し分かったような感じで帰りました。 

デナさんの送別会。私が話す番となり、まず、「米国では、卒業を Commencement(出発)と言う。日本での6年間の経験を活かして、二度ない人生を楽しみ、色々と新たなことに挑戦する人生を歩んで下さい。今日から新たな人生に向けての出発です」、と微笑みながら余裕を持ち順調な出足。

デナさんへの餞(はなむけ)に3つの話を準備し、さて、それを紹介しようと一呼吸。これが間違い。

一呼吸の間に、13年前、共同研究のためインドネシアに行き、デナさんと初めて会った時、「私の処で博士号を取得したい」と、彼女が言った日から13年の日々が走馬燈のように浮かびました。

思いもかけず急に涙が溢れ出し、言葉がでません。平常心、まだまだ修業が足らず、未熟者を痛感。

最後にデナさんが、鶴岡での研究生活や学生諸君との思い出を語り、私との研究生活等を紹介。

「先生は、一度も私に一生懸命勉強せよとか、一生懸命研究せよとか言わなかった。何時も研究生活や日本での生活をしっかり楽しみなさいと言ってくれました」と話し、前述の私への質問と私の応えを紹介。

勿論、デナさんも話しながら大泣き。教員は、学生諸君への教えより、学生諸君から学ぶ事の方が多い。また教職は学生諸君から多くの感動をもらえる有り難い職に思います。このようなひと時は、まさしく教師冥利につきます。アルバムで「留学生と過ごした懐かしい昔」を発見し、色々と思い出しました。デナさんや研究室の学生諸君に感謝です。

写真は、スカルノ・ハッタ国際空港の出発ゲート搭乗前の一葉です。


『教育の役割』(平澤 興 一日一言)

「教育とは、火をつけることだ。教育とは、火をつけて燃やすことだ。教えを受けるとは、燃やされることであり、火をつけられることです」。

「相手の心に火をつけることは、ただ一方的な命令やおしつけでできるものではなく、こちらも燃えて相手と一つになり、相手のかくれた可能性を見いだして、これを燃やすことである」。

「相手のかくれた可能性を見いだして、これを燃やすことである」、これは教育だけでなく子育てを含め、人を育てることに通じます。簡単なようでそうでないかもしれません。