日本応用動物昆虫学会最後の小集会と懇親会が大変盛況の下に終わった。もうこれで学会企画も終了と思うと、少し寂しい気もする。しかし、「出処進退」の「退」、引き際も重要に思う。
本日は、小集会の講演とそれを聞いて思い出した大学教員時代の学生指導等に関して少し記したい。
今回の小集会『縁尋機妙・昆虫生態学の牽引者から学ぶ』は、3回シリーズの最終回。この企画の趣旨は、下述の3点。
(1)これまで昆虫生態学を牽引して来られた方から、ご自身の研究や、研究の面白さ及び苦労話、今後の研究の方向性等、昆虫生態学を学ぶ後輩が役に立つと思われることをご紹介いただく。
(2)さらに、「牽引者」の仲間の方から「牽引者」の方との関わりや学び及び、ご自身の研究等を紹介。
(3)「縁尋機妙」とは、「良い縁がさらに良い縁を尋ねて発展していく様は誠に妙なるものがある」と言うこと。この小集会が、参加者の皆さんにとり「縁尋機妙」になれば嬉しく思う。
講演者は牽引者である元指導教員と2名の元博士課程の学生さん。その中の一人は、『行政施策と経営を導く昆虫生態学』との演題で講演。博士号取得後、大学教員として活躍し、その後、起業して今、社長。
下述は、その講演要旨の一部抜粋。とても興味ある講演だった。
「私は昆虫生態学で学位と職を得ましたが、それは中断してしまい、大型哺乳類を管理する行政施策に携わったり、会社を経営するようになった」。
「その時、私には虫の研究ぐらいしか取り柄はなかったが、それが施策立案や経営に取り組む力になった。いま、昆虫生態学は施策立案や中小企業経営のための学問かとさえ思える」。
「何が力なのかだが、まず、独創的で面白い研究を目指すことが指導教員と指導学生の価値観だった。独創性とある意味での「面白さ」は、実社会での課題解決には不可欠」。
「また、独立系スタートアップ企業には必要な芯。これを自分の中に準備できたことは大きいと思う」。
「次に、教科書に書いてあることが当てにならない、人に聞くより自分で考え実行しないといけない、そんな虫の研究に自分の責任で取り組み完結することは、経営者の養成に向いていたと思う」。
「そして、昆虫の適応戦略は施策と経営のヒント。仲間達の研究の苦労と事例を知り、議論し合ったことで、私の引き出しが増えた」。
「若い時期に虫の研究に没頭したことが、ビジネスの世界で貢献するための基礎になっていたようだ。このような視点から、昆虫生態学の教えが活きた局面を紹介し、また違った虫の研究の価値を伝えたい」。
この講演要旨を読み発表を聞いて「なるほど」と考えるところ大だった。私は、前職では農学部長や理事・副学長に従事し、組織改革や教育改革も担当した。
研究は、前例のない研究に挑戦するチャレンジ精神も必要に思う。この挑戦は「諸改革」にも必要で、生態学の研究を通じて学んだことが大変役立った。
さらに講演では、元指導教員の研究助言にも触れていた。元指導教員は、時として「それは君が考える問題だろう」と助言したという。これは、とても貴重な助言に思う。
研究の壁や問題に直面したとき、まずは自分で考える。この習慣は重要に感じる。ふと私の指導学生への指導を思い出した。教えるのではなく、学生自らが考え学ぶことの重要性を再認識した。
今回の小集会も学びと刺激がある集会だった。講演者や参加者してくれた皆さんに感謝。
『明師良友』(安岡正篤 一日一言)
「人間はとかく労を避けて逸に就きやすいように、学問も独りでは往々そうゆう邪路に陥りやすい。そのためにも欲しいものは明師良友である」。
「明師良友は得がたくとも、古人を友とし(尚友)、古典を繙(ひもと)くことによって、或(ある)いは、より以上の感化を蒙(こうむ)ることができる」。
『明師良友』、重要に思う。